>>2008.10.08 Update

   

>>海上自衛隊TOP

>>MILITARY PAGE TOP

■潜水艦救難艦『ちはや』 (ASR403)

 潜水艦救難艦『ちはや』(ASR403)は、平成8年(1996年)度計画によって建造された大型潜水艦救難艦。潜水艦救難艦『ふしみ』(ASR402)の代艦として平成12年(2000年)3月末に竣工した。

 昭和60年(1985年)3月末に竣工した潜水艦救難艦『ちよだ』(AS405)をタイプシップとして建造されている。『ちよだ』と比べると艦は大型化している。『ちはや』では『ふしみ』とは違い、レスキューチャンバー方式ではなく深海救難艇(DSRV)による救難方法がとられている。また『ふしみ』がブイによって洋上で固定されていたのに対し、『ちは

や』ではスラスターによって固定をするようになった。

 外見上の特徴はDSRVの揚降装置と艦橋後方にある救難指揮所(RIC)。海面下にあって見えないのだが、DSRVを海中に降ろすための艦底閉鎖装置などがある。

 遭難潜水艦乗組員の収容設備、減圧室などを備え、また平成7年(1995年)に起こった阪神淡路大震災をふまえて、手術室などの医療室が充実され災害派遣時の医療支援能力が強化されている。

 『ちはや』は平成13年(2001年)2月10日に発生した「えひめ丸事件」(愛媛県の練習船『えひめ丸』と米原潜『グリーンヴィル』との衝突。『えひめ丸』が沈没し9名が死亡した事件)において、引き上げ支援でハワイ沖に派遣されたほか、日本近海での遭難・沈没した漁船などの潜水調査などに派遣されている。平成20年(2008年)時点においては、幸いにも遭難潜水艦の救難活動に派遣されてはいない。

 なお今の『ちはや』は2代目。初代も潜水艦救難艦として昭和36年(1961年)に竣工、平成元年(1989年)に除籍されている。また旧帝国海軍にも『千早』という通報艦があったが、こちらは昭和14年(1939年)に廃艦となっている。

●『ちはや』Data

 基準排水量:5450t/満水排水量:6900t

 全長:128m/幅:20m

 機関:ディーゼル2基2軸/出力:19500ps

 速力:21ノット

 乗員:125名

 竣工:平12年(2000年)3月23日/建造:三井玉野/所属:第一潜水隊群直轄/母港:呉

◆『ちはや』一般公開 (2008.09.14)

 平成20年(2008年)9月13日(土)と14日(日)に大阪府堺市の堺泉北港において『ちはや』の一般公開があった。同年7月の呉地方隊展示訓練において、乗艦したしもきたから『ちはや』を見ていた。その時は乗艦する機会はないだろうなと思っていたのだが、堺で一般公開があって乗艦する機会がすぐに巡ってきた。

 

 

 上写真は展示訓練時の『ちはや』。一般公開時に艦の全景写真が撮影できなかったので展示訓練時に撮影した写真を掲載している。全長128m、基準排水量5450tの大きな船に多くの招待客が乗り込んでいる。

 潜水艦救難艦の特徴は、艦橋と煙突の間にある深海救難艇(以下DSRVと記す)の昇降装置。角のような突起が出ているのが昇降装置のクレーン。この中に巨大な卵のようなDSRVが収まり昇降することになる。

 海面下にあるので見えないのだが、『ちはや』にはスラスターが装備されており、GPSを利用したDPS(自動艦位保持装置)によって常に洋上の一定位置に留まることができるようになっている。

 

 

 堺での一般公開における『ちはや』。埠頭の岸壁から撮影している。全景を撮ろうとすれば対岸の工場敷地内に入るか、漁船でもチャーターしないと撮影できない。なのでこのアングルだけからとなる。

 護衛艦などとは違って救難艦であることから武装はない。小火器ぐらいは積んでいるだろうが、対艦ミサイルや魚雷、CIWSなどは搭載していないのだ。『専守防衛』を掲げている以上、相手国に対してこちらから戦闘をしかけると言うことはない。それゆえ、海上自衛隊の潜水艦は日本周辺での活動が主となるため、最前線での救助活動はないという判断からだろうか。

 

 

 潜水艦救難艦の外見上の特徴が、このDSRVの昇降装置。艦の中央、艦橋と煙突の間にある。DSRVはこの真下に移動してきて、そのまま海中に降ろされる。(もしくは海中から上がってくる。) 横須賀に配備されている『ちよだ』とこの『ちはや』は、ともにDSRVによる救助方法を採用している。DSRVだと自力で探索でき、また加圧の必要性がない利点がある。以前の『ちはや』(初代)と『ふたみ』が採用していたレスキューチェンバー方式と比べると迅速な対応が出来るようになっている。

■深海救難艇(DSRV)

 

 

 これがDSRV。巨大な卵のような形をしており、そのまま置いたのでは転がるために大きな鉄枠でがっちりと固定されている。

DSRVは互いに接続された前部・中部・後部の3つの耐圧球から構成されており、その耐圧球に外殻を張った複殻構造となっている。前部耐圧球が乗員2名が乗り込む操舵室、中部耐圧球が接続ハッチを持つ救難区画、後部耐圧球が機械室となっている。救難区画には遭難潜水艦乗組員を12名まで収容できる。

 それゆえ何度も往復しないとならない。大きくすればもっと多人数を運べると思って聞いてみたら、救難潜水艇としての大きさはこれぐらいがちょうど良いとのこと。大きくすれば潮の影響を受けて救助活動に支障をきたすことになるし、母艦自体をもっと大きくしないとならないそうな。

 

 

 DSRVの船首付近を近くから見てみる。DSRVには投光機、テレビカメラ、ソナーなどを装備している。またマニピュレーターも装備しており、障害物を取り除いたり海底にあるものを採取したりすることが出来る。

 搭乗員に聞いてみると、マニピュレーターの操作は大変難しいとのこと。操縦桿などで操作するのではなく、ロボットアニメに出てくるような、腕全体がすっぽり入る操縦装置(?) を装着して画面を見て操作するのだとか。これが感度が良く、筋肉のわずかな痙攣を感知して大きく動くことがあり、操作は慎重を要するとのこと。ちなみにマニピュレーターの先端は物をつかむことが出来るようになっている 。

 船体の上の方に『ちはや』という文字が書かれている。このDSRVが『ちはや』搭載の艇であることを示している。『ちよだ』搭載のDSRVを”一号艇”、『ちはや』搭載のDSRVを”ニ号艇”とも呼んでいるそうだ。ちなみにDSRVは川崎重工製で、1艇の建造費はおよそ170億円らしい。

 

 

 DSRVの背中。艇の船体自体は白色だが、背中は赤色に塗られている。ハッチや扉が開いている。各耐圧球への出入り口となのだろうか?

 

 

 DSRVのスクリュー。DSRVのスクリューは電動である。このほかに水平と垂直スラスタが各2基づつ装備されており、微妙な位置調整と絶えず一定位置に留まることが可能となっている。

 

 

 DSRVの機関は電動モーター。蓄電池で動いている。『ちはや』艦内には蓄電池の充電室がDSRV収納庫上にあり、使用するときはリフトで蓄電池を下ろしている。ひとつの蓄電池での駆動時間は2〜3時間ぐらいだとか。ちなみに充電室の室内は絶えず一定温度に保たれている。24度ぐらいだったか。乗組員は夏場は艦内一涼しい場所だと話していた。

 DSRVは海中で遭難潜水艦を発見すると、接近して潜水艦の救難ハッチとDSRVの専用ハッチを接合する。自国艦以外の潜水艦も救助する可能性があるため、接合方法は各国共通となっている。そのため潜水艦には救難ハッチを示す塗装が施されているとのこと。

 平成12年(2000年)から不定期にではあるが、環太平洋諸国の潜水艦保有国合同で潜水艦救難訓練が行われている。海中での接合は困難で接合に失敗する国が多い中、我が海上自衛隊は好成績を示し、救助能力は世界トップクラスであることを世界に示している。

◆深海救難艇(DSRV)主項目

全長 12.4m/幅 3.2m/深さ 4.3m/排水量 約40トン/水中速力 4.0kt

最大潜航深度 企業秘密だそうです。

建造 川崎重工神戸工場

■深海潜水装置

 減圧室(DDC)と人員輸送カプセル(PTC)の一組で構成される潜水装置。深海で作業する潜水作業員を下ろすための装置である。おおまかな流れは以下の通り。

@潜水作業員はDDC内で生活し、作業を行う深度の水圧までゆっくりと加圧する。

A加圧終了後、PTCに移動。PTCを海中に降ろし、作業員は外にでて作業を開始。

B作業終了後、PTCに戻った作業員をDDC内に収納。作業の全行程が終わるまで同じことを繰り返す。

Cすべての作業が終わると、作業員はDDC内で生活しながら、大気圧に戻るまで減圧する。

D大気圧まで減圧したら、作業員はやっと外に出ることができる。

 

 

 DSRVの向かい側にあった深海潜水装置の人員輸送カプセル(PTC)。何の案内もなかったので、あまり注目されてなかった模様。鋼材の囲い(?)で囲まれているので、人目に付かなかったのだろう。これも潜水艦救難艦には必要な設備である。

 

 

 PTCが入った囲いはレールを動いてこの場所に移動。丸い部分がPTCが昇降するところとなる。この下付近に艦上減圧室(DDC)があるが、一般公開はされていなかった。DSRV はこの場所の隣(船首寄り)の区画に移動したあと昇降する。なので艦底は開閉するようになっている。

■無人潜水装置

 

 

 『ちはや』から装備されたのが無人潜水装置(ROV)。DSRVの活動を補助する目的の遠隔操作の装置。2本のマニピュレーターを持つ。格納庫から出された状態で展示されてした。『機械のヤドカリ』という印象を受けた。

 ROVはクレーンで吊されて揚降される。遠隔操作は艦橋上の救難指揮所(RIC)にて行われる。

■救難指揮所

 深海救難艇、深海潜水装置、無人潜水装置の運用のすべてを任されるのが救難指揮所。救難作業時は、この指揮所にすべての情報が集まり、そして指示が出されるとのこと。艦橋とは別に1フロア上に設けられている。艦橋とは階段でいつでも行き来できる。

 指揮所の様子。一段上にいろんな情報を示す機器などがある。指揮官席があるので、指令はここから発するのだろう。一段下に各種装置のコントロール機器などがある。右写真の一番奥にあるのがROVの操作盤(?)。一般公開でやってきた子供達のおもちゃとなっていた。どことなく一昔前のゲーセンにあったゲーム機に見える・・・。

■艦橋

 

 

 救難指揮所の下にある。ごちゃごちゃしているのと、人が多いためどことなく狭く感じた。CICはないが、その代わりにRICがあるというところか。

■ヘリコプター甲板

 艦の後部はヘリコプター発着甲板となっている。甲板の下は居住区になっていた。ちなみに左写真に写っている真ん中の白い制服を着た人物は自衛官ではなく、自作(?)の幹部常装第3種夏服を着た一般の方。『ちはや』の取材に来ていた関西テレビの取材陣にインタビューされていた。

●ホントでかいぞ!DSRV

 潜水艦救難艦は今回の一般公開で初めて訪れ ました。DSRVを見ることが最大の目的でしたが、そのDSRVが意外に大きかったのに驚きました。海洋調査船などに搭載されている深海探査艇より少し大きいぐらいと思っていたもので。遭難潜水艦の乗組員を救助するのだから当たり前ですな。

 大きすぎて撮影するにも一苦労でした。おおかた撮影したと思っていたのですが、DSRVの艇底を撮影するのを忘れてまし

た・・・_| ̄|○ また乗艦する機会があれば撮影してきます・・・。

●『ちはや』乗艦のEOD日本記録達成 

 『ちはや』にはEOD(爆発物処理隊)の潜水隊員も乗艦していますが、『ちはや』に乗艦する潜水隊員が平20年5月に飽和潜水の日本記録(450m)を達成したとのこと。DDC内で46気圧(水深450mの水圧に相当)に順応させてからPTCで降下。水深450mの海底で約1時間作業して帰還しています。その後、DDC内で約20日生活し大気圧まで減圧したそうです。

 それまでの日本記録は『ちよだ』の水深300m。世界記録はフランスの持つ534m。今回の記録は世界第二位となります。これに刺激されて『ちよだ』乗艦のEODが記録更新したりして・・・。最大深度30mぐらいの昔ダイバー@管理人にとっては、”雲の上”というより”海の底”の話です。

 

 

【写真】KSRUと『ちはや』の船首を撮影。

【終わり】

>>海上自衛隊TOP

>>MILITARY PAGE TOP